建設工事の見積もりでは、「急ぎの工事だから明日までに出してほしい」といった依頼を受けることもあるでしょう。
しかし、建設工事の見積もり期間は、発注者側の都合だけで自由に決められるものではありません。
建設業法では、受注予定者が工事内容や施工条件を確認し、適正な見積もりを作成できるよう、工事金額に応じて一定の見積もり期間を設けることが求められています。
見積もり期間が不足すれば、原価の計上漏れや施工条件の認識違いが起こり、契約後の追加費用や赤字工事につながる可能性があります。
本記事では、建設業法で定められた見積もり期間について、工事金額ごとのルールから具体的な数え方、期間を守らなかった場合のリスクまでわかりやすく解説します。
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建設業法における見積もり期間のルール

建設業法では、建設工事の請負契約を締結する前に、注文者が工事内容や工期などの条件を提示し、受注予定者が見積もりを検討するための一定期間を設けることを求めています。
つまり、
「工事内容を伝える」
↓
「金額を出してもらう」
↓
「契約する」
という3つの工程を一気に進めてよいわけではありません。
受注予定者が施工条件を確認し、「この条件ならいくらで施工できるのか」を検討する時間を確保したうえで契約する必要があります。
特に建設工事では、同じ工種でも現場条件によって必要な費用が大きく変わります。
見積もり期間は、適正な請負金額を算出し、発注者・受注者双方が納得したうえで契約するために設けられているルールです。
工事金額ごとの見積もり期間
必要な見積もり期間は、工事1件の予定価格によって異なります。
工事1件の予定価格 | 必要な見積もり期間 |
500万円未満 | 中1日以上 |
500万円以上5,000万円未満 | 中10日以上 |
5,000万円以上 | 中15日以上 |
例えば、予定価格300万円の工事と3,000万円の工事では、確認すべき図面や材料、人員、施工条件などの量が大きく異なります。
そのため、工事金額が大きくなるほど長い見積もり期間が設定されています。
なお、ここで定められているのは「最低限確保しなければならない期間」です。
「10日以上」と定められている工事だからといって、必ず10日で回答してもらわなければならないわけではありません。
施工条件が複雑な工事や現地調査が必要な工事であれば、法定期間より長く設定して問題ありません。
むしろ、正確な見積もりを作成するために必要であれば、余裕を持った期間を設定することが重要です。
見積もり期間の数え方

見積もり期間で特に間違えやすいのが、「中○日」の数え方です。
ポイントは、契約内容を提示した日と契約締結日を含めず、その間の日数を確保することです。
例えば、500万円未満の工事で6月1日に契約内容を提示した場合を考えてみましょう。
6月1日に依頼して、「1日以上だから6月2日に契約できる」と考えるのは誤りです。
6月2日を見積もり期間として確保するため、契約できるのは6月3日以降となります。
500万円以上5,000万円未満であれば中10日以上、5,000万円以上なら中15日以上を同じように確保します。
同じ考え方で、6月1日に契約内容を提示した場合、最短で契約できる日は次のようになります。
予定価格 | 見積もり期間 | 最短契約日 |
500万円未満 | 中1日以上 | 6月3日以降 |
500万円以上5,000万円未満 | 中10日以上 | 6月12日以降 |
5,000万円以上 | 中15日以上 | 6月17日以降 |
「依頼日から10日後」ではなく、依頼日と契約日の間に10日を確保すると覚えておくと分かりやすいでしょう。

土日・祝日は見積もり期間に含める?
見積もり期間は営業日ではなく、基本的に暦日で考えます。
そのため、土曜日・日曜日・祝日を見積もり期間に含めること自体は可能です。
ただし、ここで注意したいのが、「法律上の日数を満たしていること」と「実際に見積もりできる時間が十分にあること」は別という点です。
例えば、ゴールデンウィークをまたいで中10日の期間を設定した場合を考えてみましょう。
カレンダー上では10日確保できていても、協力会社が休業していれば、実際に図面を確認したり資材会社へ問い合わせたりできる日は大幅に少なくなります。
年末年始や大型連休を挟む場合は特に、法定期間ギリギリではなく、実際の営業日も考慮して余裕のある期限を設定するとよいでしょう。
見積もり期間を短縮できるケース
原則として、見積もり期間は先ほど紹介した日数を確保する必要があります。
ただし、500万円以上の工事については、「やむを得ない事情」がある場合に限り、見積もり期間を5日以内の範囲で短縮できます。
そのため、
工事1件の予定価格 | 原則 | 短縮した場合の最短 |
500万円未満 | 1日以上 | 短縮規定なし |
500万円以上5,000万円未満 | 10日以上 | 5日以上 |
5,000万円以上 | 15日以上 | 10日以上 |
となります。
ただし、これは「忙しければ5日短くしてよい」という制度ではありません。
短縮できるのは、あくまでやむを得ない事情がある場合です。
したがって、短縮を通常の発注フローとして組み込むのではなく、原則の日数を確保できるよう早めに見積もりを依頼することが重要です。
見積もり期間が定められている理由
そもそも、なぜ建設工事では見積もり期間まで法律で定められているのでしょうか。
大きな理由は、工事内容を十分に確認したうえで、適正な請負金額を算出するためです。
建設工事は、同じ工種・同じ施工面積だからといって同じ金額になるとは限りません。
現場への搬入方法や施工時間、周辺環境、必要な人員、使用する資材などによって原価は大きく変わります。
だからこそ、契約前に施工条件を確認し、「この工事はいくらなら適正に施工できるのか」を検討する時間が必要になります。
適正な見積作成を行うため
例えば、内装工事の見積もりを作成するとします。
必要なのは材料の数量と単価だけではありません。
図面を確認し、現地を確認すると、
「エレベーターが使えない」
「夜間しか施工できない」
「資材置き場がない」
「既存部分の養生が必要」
といった条件が見つかることがあります。
こうした条件を見落とせば、材料費の計算自体は正しくても、実際の工事原価は見積金額を上回ってしまいます。
十分な見積もり期間を確保することは、こうした施工条件を契約前に洗い出すためでもあります。
適正な見積もりは、受注者側の利益を守るだけではありません。
元請側にとっても、着工後の追加請求や「それは見積もりに入っていない」といったトラブルを防ぐことにつながります。
ダンピングや不当な契約を防ぐため
見積もり期間が極端に短ければ、受注予定者は施工条件や必要経費を十分に確認できません。
その結果、本来必要な労務費や安全対策費などを十分に反映できないまま金額を提示したり、発注側から提示された価格を十分に検証できないまま契約したりする可能性があります。
適正な価格で契約するためには、価格交渉以前に、まず「適正な価格を計算できる時間」が必要です。
見積もり期間は、元請・下請が対等な立場で施工条件と金額を検討するための土台ともいえます。
見積もり期間を守らない場合のリスク

「見積もり期間が数日短いくらいなら、大きな問題にはならないだろう」
そう考えてしまうケースもあるかもしれません。
しかし、見積もり期間を守らないことによる問題は、建設業法違反だけではありません。
施工条件の確認不足による追加費用や赤字工事、協力会社との関係悪化など、現場経営にも影響します。
建設業法違反による行政処分の可能性
法定の見積もり期間を確保しない場合、建設業法違反となる可能性があります。
建設業法に違反した建設業者に対しては、国土交通大臣や都道府県知事による指導・監督が行われ、違反の内容によっては建設業法に基づく指示処分などの対象となる可能性があります。
国土交通省も、法令違反が確認された建設業者に対して監督処分を行い、その処分情報を公表しています
監督処分を受ければ、処分内容が公表される場合があり、取引先からの信用や今後の受注活動に影響する可能性もあります。
特に注意したいのが、担当者ごとに見積期限を決めている会社です。
会社として法定期間のルールを設けていなければ、担当者が悪意なく「今週中にお願いします」と依頼した結果、必要な期間を満たしていないケースも起こり得ます。
現地確認不足による赤字工事・トラブル
見積もり期間が短いと、最も影響を受けるのが施工条件の確認です。
例えば契約後に、
「搬入用エレベーターが使えなかった」
「夜間作業が必要だった」
「廃材処分費を誰が負担するのか決まっていなかった」
などが判明すれば、当初想定していなかった費用が発生します。
受注者が負担すれば利益が減り、元請に追加請求すれば金額交渉が発生します。
どちらに転んでも、契約前に条件を確認できていれば防げた可能性のあるコストです。
発注者・協力会社との信頼低下
短い見積期限での依頼を繰り返すと、協力会社側にも負担がかかります。
「明日までに、とりあえず金額だけ先にほしい」
「詳細は後で決めるので、この価格でお願いしたい」
こうした依頼が常態化すれば、「この会社の仕事は条件が固まっていない」「見積もりの負担が大きい」と判断される可能性があります。
人手不足が続く建設業界では、施工能力の高い協力会社ほど複数の会社から仕事を依頼されています。
そのなかで継続的に仕事を引き受けてもらうには、価格だけではなく「安心して取引できる元請」であることも重要です。
見積条件を早めに整理し、必要な期間を確保して依頼することは、協力会社との長期的な関係づくりにもつながります。
建設業法を守りながら見積業務を効率化する方法
「必要な見積もり期間を確保したいのは分かっている。でも、発注者から情報が届くのが遅く、どうしても協力会社への見積依頼が直前になる」
こうした悩みを抱える建設会社も少なくありません。
しかし、そこで削るべきなのは協力会社の見積もり期間ではありません。
見直すべきなのは、見積依頼に至るまでの自社側の時間です。
例えば、案件情報の転記に半日、過去の見積書探しに半日、社内承認待ちに2日かかっているのであれば、そこを改善することで協力会社に渡せる時間を増やせます。
見積作成フローを標準化する
見積業務が遅くなる原因のひとつが、担当者ごとに作業方法が異なる「属人化」です。
「単価はどのExcelを見るのか」
「この金額は誰の承認が必要なのか」
「前回の似た案件はどこに保存されているのか」
こうした確認を毎回行っていれば、それだけで時間がかかります。
そこで、
- 工種ごとの標準単価を整理する
- 見積書のフォーマットを統一する
- 金額ごとの承認者を決める
- 見積依頼から提出までの担当者を明確にする
など、見積作成の流れを標準化します。
誰が担当しても同じ流れで処理できる状態を作れば、担当者の経験や記憶に依存する作業を減らせます。
過去の見積データを活用する
過去の工事データも、見積業務を効率化する重要な資産です。
例えば、新しい店舗内装工事の見積もりを作るときに、過去の似た規模・施工条件の案件をすぐ確認できれば、ゼロから金額を組み立てる必要はありません。
さらに、当初の見積金額、受注金額、実際の原価などが確認できれば、過去の実績を次の見積もりに反映できます。
一方、過去の見積書が紙のファイル、担当者のPC、メールなどに分散していれば、資料を探すだけでも時間がかかります。
過去案件を「保存する」だけではなく、「次の見積もりで使える状態」にしておくことが重要です。
工事管理システムで見積作成を効率化する
Excelや紙での管理は導入しやすい一方、案件数や担当者が増えるにつれて情報が分散しやすくなります。
例えば、
- 最新版の見積書が分からない
- 同じ案件情報を複数のExcelへ入力している
- 見積書・発注書・請求書を別々に作成している
- 過去案件を検索するのに時間がかかる
といった状態です。
工事管理システムを活用すれば、案件情報や見積書、発注情報、原価などを一元管理できます。
重要なのは、システムを使って法定の見積もり期間そのものを短くするわけではないという点です。
自社側で発生している無駄な事務作業を短縮し、その分を協力会社が見積もりを検討する時間として確保します。
クラフトバンクオフィスでは、案件・顧客・見積・原価など、建設会社の経営に必要な情報を一元管理できます。
Excelや紙、担当者個人のPCなどに分散していた情報をまとめることで、見積作成から工事管理までの業務をスムーズにつなげることが可能です。
「法定の見積もり期間を確保すると発注が遅くなる」と感じている場合は、協力会社に与える時間を削る前に、自社のどの工程で時間が止まっているのかを確認してみましょう。
まとめ
建設業法では、受注予定者が工事内容や施工条件を十分に確認したうえで見積もりを作成できるよう、工事金額に応じた見積もり期間が定められています。
基本となる期間は、
500万円未満:中1日以上
500万円以上5,000万円未満:中10日以上
5,000万円以上:中15日以上
です。
ただし、これはあくまで最低限確保すべき期間です。
工事内容が複雑であったり、現地調査や資材価格の確認に時間が必要だったりする場合は、さらに余裕を持った期間を設定することが重要です。
また、見積もり期間を守る目的は、単に建設業法違反を避けることだけではありません。
十分な検討時間を確保することで、施工条件の確認不足や原価の計上漏れを防ぎ、元請・下請双方が納得できる条件で契約を締結しやすくなります。
「見積もり期間を確保すると発注が遅れる」と感じているのであれば、協力会社側の時間を削るのではなく、自社の見積作成・承認・発注フローを見直してみましょう。
案件情報や過去の見積もり、原価情報を一元管理できれば、自社の処理時間を短縮しながら、協力会社には必要な見積もり期間を確保できます。
クラフトバンクオフィスは、案件管理から見積・原価管理まで、建設会社の経営情報をまとめて管理できる工事会社向け経営管理システムです。
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