建設工事の見積書に載せる法定福利費は、原則として「工事の労務費総額 × 社会保険料などの事業主負担率」で計算します。工事代金の総額に、従業員と会社の負担を合計した料率を掛ける計算ではありません。
実務では、労務費を取り出す、適用する料率を確認する、保険ごとの金額を合計する、見積書に明示する、という順に進めます。この記事では、2026年10月5日時点の一次情報をもとに、工事会社が見積もりに使う計算手順を説明します。
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1.法定福利費の計算で押さえる対象範囲
法定福利費は、法令に基づいて会社が負担する社会保険料などの費用です。ただし、会社全体の経費としての法定福利費と、工事見積書に内訳明示する法定福利費は、対象範囲を分けて考えます。
国土交通省の作成手順では、内訳明示の基本となるのは、工事を直接施工する現場労働者の健康保険・介護保険、厚生年金、子ども・子育て拠出金、雇用保険の事業主負担分です。2026年度の料率表には、新たな子ども・子育て支援金も掲載されています。
- 現場労働者の会社負担分:工事ごとの労務費をもとに算出します。
- 従業員本人の負担分:基本の内訳明示額には含めません。本人負担分も明示する場合は、範囲と重複の有無を整理します。
- 労災保険料:会社の法定福利費には含まれますが、国土交通省の標準的な下請見積書で内訳明示する範囲とは区別します。
- 事務職員などの費用:直接施工する現場労働者の分と一緒に扱わず、会社側の経費として整理します。
「社会保険料をすべて足せばよい」と考えると、別の経費項目に含まれている費用を二重に載せるおそれがあります。まず、提出先と内訳の範囲をそろえてください。
出典:国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」、国土交通省「建設業における社会保険加入対策について」
2.工事ごとの労務費を求める
計算の土台は、材料や機械の費用を含む工事総額ではなく、その工事の施工に必要な労務費です。法定福利費の会社負担分を含んだ単価を使っている場合は、別途明示する分と重ならないよう調整します。
人数・日数・単価から積み上げる
例えば、1日当たりの労務単価を2万円、作業人数を5人、作業日数を10日と仮定すると、労務費は「2万円 × 5人 × 10日 = 100万円」です。工種や作業員によって単価が違う場合は、分けて計算して合計します。
見積時の人数・日数は施工計画に基づく見込みです。工事後は日報や出面の実績と比較し、次の見積もりに反映すると、同じ工種でも費用のずれを把握しやすくなります。
労務費の積み上げ方は、建設業の労務費の計算方法でも解説しています。
労務費がわからない場合は、過去の工事から根拠を用意する
材料・施工込みの一式見積もりでも、工事代金をそのまま労務費とみなすのは避けます。まず、同じ工種の実績、施工数量と作業量、予定人工などから労務費を分けられないか確認しましょう。
国土交通省は、過去の施工実績をもとに「工事費に対する平均的な法定福利費の割合」や「施工数量当たりの法定福利費」を使う方法も示しています。工事費や数量の増減と労務費が比例しやすい、ある程度定型化した工事に適した方法です。条件が大きく違う現場への流用は慎重に行います。
3.2026年度の事業主負担率を確認する
料率は保険の種類、加入先、地域、対象者の年齢などによって変わります。以下は、協会けんぽ東京支部に加入し、雇用保険は「建設の事業」を適用する場合の料率です。全国の工事会社に一律で使える数字ではありません。
項目 | 2026年度の事業主負担率 | 確認する条件 |
|---|---|---|
健康保険 | 4.925% | 東京支部の全体料率9.85%の半分。加入先・支部が違えば確認し直す |
介護保険 | 0.81% | 全体料率1.62%の半分。原則40歳以上65歳未満の対象者分に適用 |
厚生年金保険 | 9.15% | 全体料率18.3%の半分 |
子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 事業主が全額負担。支援金とは別の項目 |
雇用保険 | 1.05% | 建設の事業の事業主負担分。2026年4月1日〜2027年3月31日 |
子ども・子育て支援金 | 0.115% | 全体支援金率0.23%の半分。2026年4月分から徴収 |
健康保険・介護保険の新料率は2026年3月分から、子ども・子育て支援金は2026年4月分から適用されます。「拠出金0.36%」と「支援金0.115%」は別制度なので、片方に置き換えないでください。
介護保険は全員分へ一律に掛けません。工事ごとの対象者を把握しにくい場合、国土交通省は対象者割合を加味して料率を設定する考え方を示しています。過去の資料に載る割合を、現在の自社の割合として使わないことが大切です。
出典:協会けんぽ東京支部「2026年度の健康保険料率等」、厚生労働省・山梨労働局「令和8年度雇用保険料率」、日本年金機構「保険料額表」、国土交通省の2026年4月現在の料率表
4.労務費100万円の場合の計算例
次の例は工事見積もり用の概算です。労務費100万円、協会けんぽ東京支部、厚生年金・雇用保険の対象、介護保険対象の労務費を50万円と仮定します。材料費や他の経費、消費税は、この表には含めません。
項目 | 計算式 | 見積額 |
|---|---|---|
健康保険 | 1,000,000円 × 4.925% | 49,250円 |
介護保険 | 500,000円 × 0.81% | 4,050円 |
厚生年金保険 | 1,000,000円 × 9.15% | 91,500円 |
子ども・子育て拠出金 | 1,000,000円 × 0.36% | 3,600円 |
雇用保険 | 1,000,000円 × 1.05% | 10,500円 |
子ども・子育て支援金 | 1,000,000円 × 0.115% | 1,150円 |
合計 | 上記の会社負担分を合算 | 160,050円 |
この条件では、法定福利費の見積額は16万50円、労務費に対する割合は16.005%になります。「工事代金の16.005%」という意味ではなく、他社や別工事の標準率でもありません。
見積額と毎月納める保険料は同じ計算ではない
工事見積もりでは労務費を賃金とみなして概算します。一方、実際の健康保険や厚生年金などの納付額は、標準報酬月額・標準賞与額や各制度の対象条件に基づいて決まります。
見積もりで求めた16万50円を、給与計算や保険料納付の金額としてそのまま使うことはできません。加入先の保険料額表と従業員ごとの条件で計算してください。
計算例は上記の公式料率を用いた独自の試算です。納付計算の確認先:協会けんぽ「令和8年度保険料率」、日本年金機構「保険料額表」
5.算出した法定福利費を見積書に明示する
見積書では、材料費・労務費・経費などと区別して法定福利費を記載します。金額だけでなく、計算対象の労務費、使った料率、対象範囲を残しておくと、元請から内訳を求められたときに説明できます。
見積書・計算資料に残す項目 | 記載例・確認内容 |
|---|---|
工事の内訳 | 材料費、労務費、法定福利費を除いた経費を分ける |
法定福利費の金額 | 上の例なら160,050円。必要に応じて保険の種類ごとの内訳も示す |
計算の前提 | 労務費100万円、東京支部の2026年度料率、介護保険対象の労務費50万円 |
二重計上の確認 | 別項目で明示する会社負担分が、単価や諸経費に重ねて入っていないか確認する |
税の計算 | 工事代金に含めて請求する法定福利費は、消費税の対象として扱う |
保険者へ払う保険料と、工事代金の内訳として顧客へ請求する法定福利費は、税の扱いを混同しないようにします。国土交通省の作成手順は、見積書に載せる法定福利費も消費税の対象になると説明しています。
各専門工事業団体の標準見積書を参考にできますが、その様式でなければ作成できないわけではありません。内訳が明示されていれば、自社様式や注文者の指定様式も使えます。
出典:国土交通省の作成手順「見積書への記載・よくある質問」。見積書全体の経費整理は、工事見積書の諸経費の内訳・書き方も参考になります。
6.一人親方・外注工事で迷いやすい点
一人親方に会社負担率を機械的に当てはめない
従業員を雇わず、請負として働く一人親方の国民健康保険・国民年金は、従業員を雇う会社の社会保険料とは仕組みが異なります。自分の工賃へ、上の会社負担率をそのまま掛ける判断は避けましょう。
また、名目が一人親方でも、働き方の実態によっては使用されている企業の保険に加入すべき場合があります。肩書だけで「対象外」と決めず、契約と実態を確認します。
外注費の総額へ、自社の料率を重ねて掛けない
外注先の見積書には、材料・労務費・経費・法定福利費が含まれていることがあります。外注代金の全額を労務費扱いにせず、外注先がどこまで計上したかを確認してください。
- 外注先の見積書で、法定福利費が含まれている項目と金額を確認する。
- 自社施工分と外注施工分の計算範囲をそろえる。
- 元請へ出す見積書で、同じ会社負担分を重ねて計上していないか確認する。
工事の内訳を材料・工賃などで積み上げるのか、外注先の見積金額を使うのかによって整理の仕方は変わります。数字を足す前に、何を含んだ金額かを確かめるのが先です。
7.計算根拠と実績を残し、次の見積もりに生かす
計算式が合っていても、元の労務費が実態より少なければ、必要な会社負担分を十分に見込めません。見積時と工事後で、次の3点を比較しましょう。
- 作業量:予定した人数・日数と、日報・出面の実績。
- 料率・対象:適用年度、加入先、介護保険などの対象条件。
- 原価:見積もりに含めた費用と、実際に発生した費用の差。
日報、見積書、原価の資料が別々だと、差が出た理由を探すだけでも手間がかかります。まず案件ごとに情報をそろえ、計算方法と更新日を共有できる状態にすることが、見積もりの見直しにつながります。
クラフトバンクオフィスは、日報・案件・見積などを一元管理し、労務費や材料費などの原価と工事ごとの利益を確認できる経営管理システムです。対面での説明会などのサポートも用意しています。
保険料率や加入条件は公式情報で確認しつつ、社内の見積・原価管理をどう整えるかを相談したい方は、現在の運用や困っている作業をお聞かせください。