建設業で常用契約を結ぶ際は、企業と職人で雇用関係を結ぶ必要があり、個人事業主である一人親方と常用契約を結ぶのは、違法行為にあたります。
また、偽装請負問題や労働者派遣法違反など、建設業者が職人を雇い仕事を依頼する上で理解しておかなければならない問題があります。
そこでこの記事では
- 建設業における常用契約と請負契約の違い
- 常用契約が違法になるケース
- 偽装請負問題
- 労働者派遣法違反
などを詳しく解説します。
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建設業の「常用」とは?現場での意味と使われ方
建設業でいう「常用(じょうよう)」とは、仕事の完成ではなく「1日あたりの労働力」に対して報酬を支払う働き方・取引のことです。1人の職人が1日働く量を「1人工(にんく)」と数え、「1人工あたり〇円」という常用単価(日当)で精算するのが一般的です。
現場では、次のような言い方で使われます。
- 常用で入る/常用仕事:出来高ではなく、日当で現場作業に入ること
- 常用工事:作業の範囲を決めきらずに、かかった人工数で費用を精算する工事
- 常用大工・常用職人:日当制で現場に入る大工・職人
- 人工出し:自社の職人を、他社の現場に日当で送り出すこと
一方、「受け(請負)」は、作業内容と金額を先に決め、完成させたことに対して報酬を受け取る形です。常用か請負かによって、誰が作業を指示するか、誰が完成の責任を負うかが変わり、違法になるかどうかの分かれ目にもなります。
常用と請負(受け)の違い|常用契約と請負契約を比較

常用契約とは、会社に属する従業員のように、1日の働く時間や報酬が決まっている契約のことです。
例えば「1日あたり2万円で、勤務時間は8時〜17時まで」のように、条件が決まっており仕事の完成・未完成は問われません。
常用契約では、受け取るのは作業員への報酬のみで、材料費や運搬費などは発注元が負担します。
一方、請負契約とは、仕事内容と業務範囲、金額の提示があり、仕事を受けるかどうか自ら決める働き方のことです。
請負契約であれば、1日の勤務時間や仕事の進め方は個人の自由で、最終的に納期までに請け負った工事を終わらせれば問題ありません。
請負契約で受け取れる費用には、材料費や運搬費、機材使用料、職人の報酬が含まれます。
請負契約であれば働く時間は自由ですが、納期を考慮して自ら考えて仕事を進める必要があります。
仕事内容はあらかじめ決まっているため、業務外のことを依頼する際は新たに契約する必要がありますし、契約せずに無理にやらせるのは違法です。
比較項目 | 常用契約(人工出し) | 請負契約 |
|---|---|---|
報酬の対象 | 一定時間の労務の提供 | 工事の完成 |
完成責任 | 負わない | 負う |
指揮命令 | 発注元が行う | 自社(受注側)が行う |
勤務時間 | 発注元が指定 | 受注側の裁量 |
材料費・運搬費 | 発注元が負担 | 受注側が負担(請負金額に含む) |
一人親方との契約 | 不可(偽装請負・派遣法違反のリスク) | 可 |
常用で発注するときの契約書のポイント
会社間で「常用」で仕事を頼む場合、発注側が相手の作業員に直接指示を出すと、建設業務では禁止されている労働者派遣とみなされるおそれがあります。注文書・請書などの契約書では、次の点を明確にしておきましょう。
- 契約の種類:請負契約であること(作業の範囲・数量)
- 単価の決め方:1人工あたりの単価と、人工数で精算する方法
- 指示系統:作業員への指示は、受注側の職長・責任者が行うこと
- 工具・材料の負担区分
- 工期・作業時間、追加作業の扱い、支払条件
個人の職人を自社の指示のもとで日当制で働かせる場合は、請負ではなく雇用契約として扱い、労働条件通知書を交付するのが原則です。
建設業の常用契約(人工出し)で違法になるケースとは?

建設業における雇用契約には、常用契約と請負契約の2種類がありますが、職人の働き方によっては、常用契約が違法になるケースがあります。
本章では、以下の
- 一人親方を常用で使うのは違法?
- 世間的に問題視される偽装請負
- 労働者派遣法違反への抵触
などを詳しく解説します。
一人親方を常用で使うのは違法?
一人親方(個人事業主)に日当で仕事を頼むこと自体が、ただちに違法になるわけではありません。問題になるのは、契約上は請負(外注)なのに、働き方の実態が「雇用」になっているケースです。
たとえば、発注側の現場監督が作業の段取りや手順を細かく指示し、始業・終業時刻を管理し、道具や材料もすべて支給しているなら、その一人親方は実質的に「労働者」と判断される可能性が高くなります。この場合、本来は雇用契約を結び、社会保険への加入や残業代の支払いが必要です。
国土交通省も、社会保険料の負担を逃れる目的での「一人親方化」を問題視し、「働き方自己診断チェックリスト」を公表しています。年齢が10代の技能者、経験年数3年未満の技能者、チェックリストで労働者に近い働き方に多く当てはまる技能者については、元請企業が雇用契約への切り替えを促すよう求めています。
一人親方に常用で仕事を頼むなら、実態としても細かな指揮命令をしない形にするか、継続的に指示して働いてもらう必要があるなら雇用契約を結ぶのが安全です。
世間的に問題視される偽装請負
偽装請負とは、実際には従業員として常用契約を結んでいるのにもかかわらず、一人親方として請負契約を結んでいるかのように働かせる行為のことです。
前項で、「常用契約を結ぶと従業員になるため、社会保険料を支払う必要がある」と説明しました。
請負契約であれば、企業側が社会保険料を支払う必要がないため、社会保険料への加入を逃れるために、偽装請負が行われるのです。
また、請負契約の場合は、指揮命令権は作業員を雇用している会社にあります。つまり、元請業者や発注者は指示をしたらいけないのです。
請負偽装によって、労働者の雇用を不安定にさせ、労働災害が発生した際の責任の所在が不明確になってしまう点なども問題として挙げられます。
当然、国としても偽装請負を問題視しており、建設業界では働き方改革や環境整備を行うための対策も進められています。
偽装請負かどうかの判断基準チェックリスト
請負として発注していても、次の項目を満たしていない場合は、偽装請負と判断されるおそれがあります。判断のよりどころは、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)です。
チェック項目 | 請負として適正な状態 |
|---|---|
作業の指示 | 作業の手順や段取りの指示を、受注側(下請・一人親方)が自ら行っている |
作業者の管理 | 誰を何人配置するか、出退勤・休憩・残業の管理を受注側が行っている |
現場の規律 | 服務規律の指導や配置の変更を、受注側が決めている |
資金の負担 | 作業に必要な資金を、受注側が自分の責任で調達・負担している |
事業主としての責任 | 労災保険・社会保険など、事業主としての法律上の責任を受注側が負っている |
機材・技術 | 自分で用意した機械・工具・材料を使う、または専門的な技術や経験にもとづいて作業している |
報酬の決め方(実務上の目安) | 「何日働いたか」ではなく「どの作業を完成させたか」で金額が決まっている |
労働者派遣法違反への抵触
偽装請負が問題視されていると解説しましたが、もしも偽装請負が発覚した場合は、労働者派遣法違反に抵触し刑事罰の対象となります。
従業員が請負契約を結ぶのも、一人親方が常用契約を結ぶのも、どちらも違法です。
また、自社の従業員や職人を他社の現場へ向かわせるのは、派遣に該当し、建設業において労働者派遣法違反として禁じられています。
万が一、労働者派遣法違反に抵触すると、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されます。
ただし、現場に派遣した従業員が指示を受けるのではなく、現場での指揮命令や裁量権をもって施工していれば、たとえ常用契約でも建設工事の請負とみなされるのです。
偽装請負に該当するかの判断基準は、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」に記載があるので確認してみてください。
労働者派遣がNGの理由
建設現場での作業(建設業務)は、労働者派遣法で派遣が禁止されている業務です。禁止されている理由や、禁止される具体的な作業、例外的に派遣で受け入れられる業務については、以下の記事で詳しく解説しています。
>>>建設業で派遣・日雇いが禁止される理由|応援は違法?例外的にOKな業務と罰則
つまり、建設業の現場で働く職人は毎月安定的に仕事を得られるわけではないため、非常に不安定な働き方といえます。
派遣労働者のような弱い立場の労働者では、仕事の状況によって簡単に雇用を打ち切られる可能性があるため、建設業では労働者の派遣が禁止されています。
労働者派遣法違反の事例
実際に労働者派遣法に抵触したとして、以下のように刑事告訴されているケースもいくつか見受けられます。
【秋田県の建設会社】
住宅補修工事のために雇用した作業員を別の会社に派遣し、派遣先での作業中の事故で死亡した事例(秋田労働局公表・現在は公表ページが削除されています)
【愛媛県の建設会社】
雇用先が作業員を別の会社に派遣し、造船所内で解体中の足場から転落し死亡した事例(愛媛労働局公表・現在は公表ページが削除されています)
これらの事例のように、雇用先が自社の従業員を別会社に送り、別会社の指揮のもとで業務にあたらせることは「労働者派遣」に該当します。契約書上は請負としていても、実態として派遣先が指揮命令を行っていれば、書面の名称にかかわらず違法と判断されます。
建設業で派遣を行なうなら「就業機会確保事業」の許可を受ける

就業機会確保事業とは、建設業者が雇用する従業者において、一時的に余剰となった場合にほかの建設業者に派遣する制度のことです。
就業機会確保事業であれば、派遣先の会社が指揮命令をしても派遣業法違反にはなりません。
そのため、雇用主である会社・従業員・人手が足りない建設業者と3者にとってメリットがある制度なのです。
就業機会確保事業の許可を受けるには、以下の条件があります。
- 雇用側企業と受入先企業の双方が、同じ建設業の事業主団体の構成員であること
- 事業主団体が派遣に関する計画を作成し、厚生労働大臣の許可を受けること
- ⑵の計画で示した雇用側企業と受入先企業の組み合わせの範囲でしか、建設業務労働者の派遣ができない
- 目的は常用雇用労働者の一時的な余剰が生じた場合に、労働者の雇用の安定と維持を図るためであること
また、所有資産額や負債総額など、事業を的確に遂行するだけの能力があるかどうかも判断材料にされます。
詳しくは、厚生労働省の「建設業務労働者就業機会確保事業」をご覧ください。
建設業における労働者派遣OKの業務

現場事務所の事務員、CADオペレーター、施工管理業務など、建設現場での作業そのもの(建設・解体などの作業)に当たらない業務は、派遣で受け入れることができます。ただし、派遣された施工管理者に資材の運搬や片付けをさせると違法になるなど、注意点もあります。具体的な業務の範囲は、以下の記事にまとめています。
>>>建設業で派遣・日雇いが禁止される理由|応援は違法?例外的にOKな業務と罰則
時間外労働の上限規制と一人親方への影響

建設業の雇用を考えるうえで避けて通れないのが、時間外労働の上限規制です。
2019年に施行された「時間外労働の上限規制」は、建設業界では長時間労働の常態化と人手不足の深刻化を理由に5年間の猶予期間が設けられ、2024年4月から適用されています。いわゆる「2024年問題」と呼ばれてきたもので、現在はすでに規制下での運用が求められる段階です。
上限時間を超えて労働させた場合は、会社が罰則の対象となります。従業員を雇用する会社だけの問題ではなく、常用で現場に入る職人や一人親方の働き方にも影響します。
上限規制がもたらすメリットとデメリット
時間外労働の上限規制がもたらすメリットとデメリットは以下のとおりです。
【メリット】
- 過労のリスクを減らせる
- 作業中のケガや事故の防止につながる
- 作業員の心身の健康を守れる
【デメリット】
- 工程が今まで通り進まなくなる可能性がある
- 納期に間に合わない可能性がある
- 一人親方は、稼げる金額が減る可能性がある
このようにメリットだけではなくデメリットもあり、職人との雇用関係や作業工程などを見直す必要も出てくるでしょう。
まとめ:常用契約は「実態」で判断される。偽装請負にならない形で契約しよう
この記事では、建設業の常用契約と請負契約、一人親方の常用契約の違法性などを詳しく解説しました。
建設業の「常用」は、日当(常用単価)で労働力を提供する働き方で、それ自体が違法なわけではありません。違法になるのは、契約上は請負なのに発注側が作業員を直接指揮命令している「偽装請負」や、建設業務で禁止されている労働者派遣に当たるケースです。
一人親方や協力会社に常用で仕事を頼む場合は、作業の指示を誰が出すのか、工具・材料を誰が負担するのかを契約書で明確にし、実態もそのとおりに運用しましょう。継続的に指示を出して働いてもらう必要があるなら、雇用契約を結ぶのが安全です。